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依頼者ご自身が建築家 |
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昨年の秋にB&Wノーチラスのセッティングとオーディオルームの設計を高知県のT.I様よりご相談頂きました。ノーチラスのキーワード検索でローゼンクランツのお客様訪問のページに入って来られたのがきっかけとのことでした。
今までのノーチラスの3度のセッティング実績もさることながら、カイザーサウンド独自のオーディオへの拘りのアプローチと豊富な経験に信頼を感じて下さっていたようです。最終決断に至るまでには、実際に東京試聴室にも足を運ばれ、音も確認した上でご判断されたのは当然の事でした。
ご自身で建築の仕事をされているので、本来間に入るはずの業者との打ち合わせがなく、ご本人との打ち合わせだけでスムーズに話が進んで行くので私にとっては大変楽でした。
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四国最南端の足摺岬までは遠かった
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高知といっても足摺岬がすぐ近くですからとにかく遠かったです。広島を朝6時半に出て足摺岬の宿に着いた時は夕方の6時前でした。途中で寄り道をしたとはいえ11時間ほど掛かった計算になります。
そのルートは松山堀江港まではフェリーで1時間50分、午前10時前に着きました。その港からほんの数百メートルのところに取引先のカーショップがありますのでプジョー407デモカーの音を聴いてもらいました。
松山から200キロ足らずの距離ですから大した事はないと思っていましたが、ナビは5時間ほどの所要時間を表示します。何かの間違いでは?と思いましたが、実際に走ってみるとなるほどと納得しました。
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美しい四万十川と荒波の足摺岬
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四万十川流域を下ったのですが、対向車と離合出来ないほどの狭いところが沢山あり、いたるところに警笛鳴らせの標識が立っています。徐行運転ばかりですから、1時間に20キロぐらいしか進まなかった時もありました。
ダムもなく、自然のままの姿を残した四万十川の美しさは噂に違わぬものでした。10月の頭には音を仕上げる為に再度訪問予定を組んでいるのですが、もう一度そのルートを走るのはちょっと腰が引けます。それぐらい運転に神経を使いました。
翌朝は早く起きて仕事前に足摺岬見物としゃれ込みます。展望台の入り口に立っている銅像は坂本竜馬と思いきや、幕末時の日本に大きな影響をもたらしたジョン万次郎でした。その断崖絶壁には強い波が押し寄せ海面は泡で真っ白・・・。
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大掛かりなノーチラスの組み立て
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T.Iさん宅は小高い山の上あり、雑木林を切り開いた広い敷地に馴染む南欧風のモダンな建物です。
朝の10時から仕事です。ノーチラスをセットするのにマランツサービスが大阪から二人、さらにピアノ運送から3人、そして私共親子を入れて合計7人がセッティングに関わりました。
このノーチラスは一度設置してしまうと微妙な位置調整がままならないので、出来るだけ慎重に位置決めする必要があります。今回のセッティングはスピーカー下にサウンドステーションを履かせますので、設置後でもそれごと動かせば音の微調整が効きます。
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何度立ち会ってもその組み立ては大変
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正面から見て真っ直ぐに立っているか?、その次はさらに仰角の確認です。上方に向け過ぎると音に力が無くなりますので、丁度良い角度になるよう指示を送ります。
御影石風の人工ベースに向けてわずか1本のボルトで固定しているだけですから、ピタッと理想の立ち姿にするのは大変困難な作業です。
その手順は台座の下に腕が入るほどの隙間を確保するのに枕木のような物をかまします。そして指示を貰いながら手探り状態の中でスパナを使って締めるのです。少し遊びがあるので、組み立て方次第では音の良し悪しに違いが出てもおかしくありません。
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オーディオ史に燦然と輝くサウンドデザイン
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理論上消音パイプが長いほど良いとする理想を無理やり形にした物ですから、このオリジナルノーチラスは実用性を考えた場合には?が付きます。
しかし、商売的にはこの設計思想がオーディオファイルから認められ、B&Wの大躍進に繋がった訳ですから、ノーチラスは文字通りフラッグシップとしての役割を果たしたわけです。
これほどまでにコンセプトがハッキリしていて、分かり易い音の提示は今までに無かったのではないでしょうか。音のデザインに関係する者からしてみれば学ぶべきものが沢山あります。
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内装の基本となるのは大理石の床と漆喰の壁
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「オーディオルームはかくありき」といったお仕着せ的な考え方を私はしません。その理由は、過去に何度も居心地の悪い、音の悪いオーディオ専用ルームを見てきているからです。
優先すべきは機能的で快適な暮らし易い部屋である事です。そこに素晴らしい音楽を持ち込みたいといった考え方をするようにしています。
今回も施主であるT.Iさんの希望を組み入れた形で進めて行きました。全面大理石貼りの床でのセッティングの経験はありませんが、当社にはあらゆる場面を想定したルームチューニング製品と豊富な経験やデーターがありますので心配はしていません。
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計算された音響設計の数々
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大理石の定尺物は40cmX40cmですが、この寸法だと嫌な音になります。コストが少し余分に掛かってもここが一番設計の肝になるところですので、スピーカーを置く壁から3メートル弱のエリアまで特注でカイザー寸法の36.8センチでお願いしました。
全面そうしなかった理由の一番はコスト面ですが、床暖房との兼ね合いを考えたのと、縁を切る形にしたのは背面の壁に仕掛けを施したかったからです。そうすれば前方に比べて僅かであっても背面壁に力を集約出来ます。
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背面と側面の壁の厚みに違いを持たせる
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背面の壁と側壁の厚みは変えてあります。側壁はカイザー寸法の21ミリですが背面は少し厚くして22ミリにしてあります。T.I邸最大の仕掛けはこの壁面構造にあります。
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楽器のチューニング構造を部屋に持ち込む
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スピーカーの発するエネルギーは左右よりも前後に大きい関係上、背面で受けた力は自然と両翼の壁から前方に向かって移動します。また、その流れをより上げる為に今回の設計では厚みに違いを持たせたのです。
両壁間の振動ループと逆走を遮断し、スピーカーから得た音楽振動エネルギーをアンカーボルトで固定した「音柱」のトルクコントロールによって、楽器の音合わせと同じようにチューニングするのです。
その両者のインターフェイス的役割をこなすのが巾木です。硬くて速い大理石の振動を緩衝材として一旦受け止め、音楽振動に変えながら4本のポイントゲッターである「音柱」にバトンタッチするのです。巾木は野球に例えれば、送りバントの上手い二番バッターです。
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部屋その物を楽器に変身させます
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要するに壁面全体の響きの調整が自由に出来る仕掛けなのです。大げさにいうならば部屋自体を楽器の構造体にしつらえるわけです。
床から天井までの4本の通し柱の繊維のしなりを利用して空気を叩くイメージです。すなわち、冷たくきつめの石やコンクリートといった練り物のデッドで暗めの音に明るい木の響きを付加しようとの狙いなのです。
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カイザーサウンドのオリジナル技術
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もちろん床からの振動だけではなく、スピーカーが突き動かす空気の反射との両面作戦です。この音響設計メカニズムはカイザーサウンドのオリジナル技術です。
柱の寸法比もさることながら、ネジ止めのスパンを決めるのがこの構造のキーポイントであります。ここのプロポーション次第で音は生きも死にもしますので、一朝一夕に真似の出来るものではありません。
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< 以下は柱と巾木の打ち合わせ段階でのやり取りの様子です >
----- Original Message -----
From: info@rosenkranz-jp.com
To: T.I
Sent: Wednesday, May 24, 2006 2:35 AM
Subject: Re: 巾木
T.I様
巾木ですが、石の方がセッティングが厳しくなり私にとっても大変です。
どちらにも良い点があります。
しおじの場合はいろんな場面で辛抱強く裏方に徹してくれるような感じです。
システムの中にこうした役割の部分もなければなりませんので、
今回はしおじという事で行きましょうか。
材料の寸法は響きの問題ですから、
元のサイズが重要ですので表に見える寸法は気にしないで下さい。
柱は楢の板目でお願いします。
長さ 2,980
幅 170
厚み 34
長手方向に8ミリにて両角Cの面取り。
壁にアンカー打ち込み。
3ミリ厚のワッシャを介して
M12ボルト5ヵ所止め。
穴あけ寸法15ミリ。
ザグリの深さ15。
センターに1ヶ所。
穴中心から両エンドまでの長さ210。
残りの2ヶ所はその真ん中にお願いします。
ザグリ径はボックスレンチが入るほどでお願いします。
後で私がトルクコントロールします。
これが建物とスピーカーを一体化させる為のもので、
今回の音の設計の根幹を成すものです。
カイザーサウンド
貝崎静雄
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部屋の設計は大成功のようです
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オーディオシステムの音出しに先立ち、T.Iさんにお得意のトランペットを吹いてもらいましたところ、一般住宅では今までに経験した事ないほどの心地良い響きがしました。
ひそかに、「これなら行けるぞ!」との思いが頭によぎります。
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アンプについては私の推薦です
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プリはゴールドムンドのMIMESIS SR P2.3、パワーはMIMESIS SR 2.3 MEX4です。ゴールドムンドのアンプの中ではエントリーモデルですが、実際には高い上級機よりもバランスが良く、クリアーでスピード溢れる音楽性が一番の長所です。
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スピーカーケーブルの結線方式には疑問
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どのケーブルにするかは予算と音との両にらみの上で決定する事になっていますので、今日は仮結線になります。ラインケーブルは情報をストレートに送り込むBasic1にしました。
スピーカーのお尻にはオリジナルケーブルがわずか50センチほど残した状態で切断され、PADと繋ぐべく8ピンコネクターに改造されております。セッティングにはローゼンクランツの電源タップやオーディオラック等実績のある製品で固めたのですが、PADのスピーカーケーブルとのマッチングが宜しくないのでしょうか、低音にダイレクト感がどうしても出ません。
こうしたコネクター式結線はエネルギーロスが大きく、特に半田付けの腕の差がもろに出ます。今回のような4ウェイマルチの場合スピーカーユニットの音圧レベルが揃わないのが最大の問題です。
コネクター部分の結線を止めて確実にコンタクト出来るスピーカーターミナルボックスを作る事を推薦して次回の音作りに備えるようにしました。
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二度目の訪問
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一月ほどの準備期間の後二度目の訪問です。出来たばかりの新製品であるReference1でピンケーブルを作りました。プリからチャンネルディバイダーまでを8.1kaiser、各パワーアンプ用に0.9kaiserX4です。
今日の仕事において、最も音が様変わりすると見ているのはスピーカーケーブルのジョイント部の変更です。そのスピーカーターミナルボックスには響きの美しいハードメイプル材を、端子はいつも使っている選別済みのWBTを使用し、ワンオフ設計にて音の良い寸法比で製作しました。
800万円以上もするPADのケーブルから元々付いていたオリジナルのケーブルに変更です。どんな長さに裁断しジョイントするかが、音楽の表現に大き違いとなって現れますので、それを見切る力が良い音を構築するには欠かせません。
ケーブルの適切な長さは特にテンポと抑揚面に大きく関係します。スピーカー側を数センチ、残されたアンプ側は約20センチ切り落としました。これは、音楽信号を伝送する場合、ケーブルの長さによって音の良し悪しの周期性が存在する為です。
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セッティングの最終章
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ご覧下さいこの美しいワイヤリングを。低い周波数のケーブルを一番下にし、その後、帯域毎に上に抜けるように滑らかなカーブを作ってやります。こうして緻密な計算の基に結線し直したシステムは一糸乱れぬバランスになるはずです。特にスピーカー端子のネジ締めトルクの調整によって4つのスピーカーユニットのバランスを揃える事が可能なんです。
本来ならば色々なケーブルの音の違いやインシュレーターの試聴等を初回訪問時にやっておく予定でしたが、前回はスピーカーケーブルコネクターにどうやっても解決出来ない不備な点がありましたので、出てくる音に大変不満がありそれは出来ませんでした。
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T.Iさんこそ真のマイルスファンです |
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しかし、これでやっと私の納得の行くコンディションにて音を出す事が出来そうです。マイルス・デイビスの大ファンであるT.Iさんが好んで聴くのは、大半のジャズファンがあれはジャズではないと酷評する70年代のアグレッシブな音楽です。
どちらかというと私も一般受けのする音楽よりも、新しいものへ挑戦しようとする音楽の方が好きなものですから、T.Iさんとは向いている方向は似ていると思います。
でもそんな音楽をステレオで再現するのは至難の業ではないのです。でも予算というもの制約もありますので、インシュレーターを入れたり外したり、特にACケーブルは色々交換して聴いて頂きました。
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次回のグレードアップが楽しみ
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初期のプランは電源周りを一番強化したものだったのですが、なにかと出費がかさんだので電源ケーブルにシワ寄せが行くことになりました。
マルチシステムなので統率感を出すのに、コントロールアンプ専用の電源ケーブル
(AC-Music Conductor)だけは思い切って導入して頂きました。
試聴段階で鳴らした音より少し線が細くなった感はありますが、何よりノリとテンポは音楽を聴く事において欠かす事は出来ませんので、そこを重要視した形で最後に音をまとめ上げました。
その内予算が出来た時に今回実現出来なかった部分の強化を計れば、より生に近い音楽を手に入れられるのは間違いありません。何より部屋の音響設計が完璧に出来ていますので、どこまでも応えてくれるはずです。
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